ニュース: 2018年9月

Molecular biology of frozen shoulder (2018年09月29日)

Frozen shoulder(いわゆる40肩)は症状のレベルによってなかなかスッキリ治らないことがあります。
なかなか治療家泣かせの症状ですね。
最良の治療に近づけるために、もう一度この疾患のメカニズムをおさらいしておくのも良いと思います。

参考になりそうなデータがあったのでご紹介。

Frozen shoulderは肩関節の可動域制限と痛みを伴う慢性症状である。
患者によっては長期間にわたって肩関節の動作が制限され、著しくQ.O.Lが低下する。
現在Frozen shoulderの分子生物学に関する文献は少数であり、関節周囲炎が誘発する肩関節可動域制限の分子生物学的メカニズムは不明確である。
今回の調査では線維化に関連するサイトカインや炎症にフォーカスした。
調査の結果炎症メディエーターや線維症関連サイトカインの変性が確認され、それらは肩関節の構造的な変化をもたらしFrozen shoulderの発症に関与していることがわかった。

定義と基本的な臨床データ

Frozen shoulderは、全方向(特に外転、外旋、伸展)の可動域制限、肩多関節の痛み、肩甲上腕関節関節包の硬縮や炎症性の癒着が特徴的な多因子疾患である。発症年齢は30歳から70歳で、平均年齢は50歳である(Bhargav Dら 2011)。男性よりも女性における発症が多く、右肩よりも左肩での発症が多くみられる(Bhargav Dら 2011)。
Frozen shoulderの罹患率は約2~5%である(Shaffer Bら1992)。
リスク要因には糖尿病、甲状腺疾患、脳卒中などの発作、自己免疫疾患が挙げられる(Li Wら2015)。
糖尿病患者のFrozen shoulderの罹患率は10%~20%と高く(Li Wら 2015)、麻痺状態の患者においては16%~84%である(Wilson RDら2015)。

肩関節可動域制限

もっとも典型的なFrozen shoulderの兆候は、全方向への自動的または他動的肩関節運動の可動域制限である(Vastamäki H,ら2012)。可動域制限は肩関節の病的な変性に起因し、痛みはマイナーな病原性因子である。Frozen shoulderの自然経過は、痛み、硬縮、回復の3つのステージから成る(Shaffer B,ら1992)。Frozen shoulderは自己制限疾患であり、肩部痛や機能は上記の3つのステージを経て回復すると考えられてきた(Vastamäki Hら2012)。
しかし近年、外科手術を行わずに完全に機能を取り戻すことはできないと結論付ける研究データも多い(Leonidou Aら2014)。
外科手術を受けなかったFrozen shoulderの患者41人を追跡調査した結果、彼らのうち60%が5年から10年後も肩関節の可動域制限を患ったままであった。
Shaffer のチームは61人の患者を約7年追跡し、彼らのうち70%が可動域制限を患い、50%が痛みを引きずったままであると報告した(Shaffer Bら1992)。
画像診断では関節ボリュームの減少や肩甲上腕関節関節包の肥厚や短縮が見られた。
MRI診断では烏口肩峰靭帯とローテーターインターバルの著しい肥厚が確認された(Tamai Kら2014)。
病理組織研究では特徴的なサインとして、慢性的な滑膜炎や線維化といった肩甲上腕関節関節包の拘縮が挙げられた。
要約すると、Frozen shoulderにおける肩関節可動域制限は、線維化や炎症による関節の病的な変性に起因するということである。
分子生物学的な可動域制限の理由は不明確だが、現在線維化関連サイトカインや炎症メディエーターの発現に関する調査が行われている。それらのサイトカインはFrozen shoulderの発病に関与して肩関節の構造的変化を誘発し、最終的に肩関節の可動域制限を引き起こす。

炎症と関連するサイトカイン

Frozen shoulderの急性期で、患者は著しい関節可動域制限を被り、特に外転、外旋、後方伸展で顕著である。1896年にはDuplayのチームが、Frozen shoulderは肩峰下滑膜炎に起因する肩関節の関節周囲炎であると提言している。
その後Frozen shoulderにおける分子生物学的研究において、炎症性サイトカインに注目が集まっている。

1997年にはRodeoのチームが14人の患者と7人の健常者を対象に、肩関節関節包や滑膜の細胞診を行った。免疫組織化学的局在や定量PCR(qPCR) によって、インターロイキン1α(IL-1α), IL-1β、腫瘍壊死因子(TNF)レベルの上昇が確認された。
初期のFrozen shoulderでは血管新生が発生することも多くの研究で明らかになっている。
炎症性サイトカインが血管新生を刺激し、炎症を亢進させる(Lingueglia E 2018)。

Hand のチームはFrozen shoulder患者の肩関節関節包の細胞診で慢性炎症性細胞を確認し、それらの細胞には主にマクロファージ、B-リンパ球、T-リンパ球、マスト細胞が含まれる(Hand GCら2007)。
Lho のチームは肩関節不安定性の患者(コントロール群)とFrozen shoulderの患者(実験群)の肩関節関節包と IL-1α, TNF-α, and COX-2の比較研究を行った(Lho YMら2013)。免疫組織学的解析、RNAのqPCRでIL-1α, IL-1β, TNF-α、シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)の発現が認められ、実験群の肩関節関節包においてCOX-2の著しい上昇が認められた。さらに重要な発見は IL-1α, TNF-α, およびCOX-2の発現が実験群の肩峰下滑膜で著しい上昇を示したことである。さらに、免疫組織学的解析では実験群の肩関節関節包と肩峰下滑膜でCOX-2 の発現上昇が確認された。

上記の分子生物学的研究から、血管新生、炎症性細胞の浸入、 COX-1, COX-2, IL-1, IL-6 およびTNF-αといった炎症性サイトカインの発現上昇がFrozen shoulderでは確認されることが分かった。また、炎症は分子レベルでFrozen shoulderの兆候を示しており、COX-1, COX-2, IL-1, IL-6, TNF-α等はFrozen shoulderの炎症のトリガー、調整、抑制に重要な役割を果たしている。炎症は癒着、腫脹、痛みの原因となり、最終的に関節可動域の減少につながる。

線維化と関連サイトカイン

Frozen shoulderは肩関節関節包の拘縮と肥厚が特徴的だが、そのメカニズムははっきりとわかっていない。いくつかのタンパク質がその病理プロセスに関与していることは広く知られている。
肩関節の拘縮や肥厚は増殖性線維形成疾患だと信じる者もいる。増殖性線維形成疾患は、マトリクス変性の抑制または細胞外マトリクスの過剰な蓄積の結果である(Hand GCら 2007)。

1995年、 BunkerとAnthonyはFrozen shoulderの患者12人から烏口肩峰靭帯と肩関節関節包の組織サンプルを採取し、モノクローナル抗体を用いて免疫細胞化学染色を行った(Bunker TDら1995)。彼らはサンプル内で筋線維芽細胞と線維芽細胞の著しい侵入を確認した。
免疫組織化学的検査では、相当量の組織内の小結節状コラーゲン線維が確認された。
関節包と靭帯におけるこれらの所見は、デュピュイトラン拘縮に類似している。デュピュイトラン拘縮は増殖性線維形成疾患である。

Bunkerは、Frozen shoulderの病理的変化の本質は線維質の増殖であると述べた。
Raykhaのチームは、Frozen shoukderの組織ではβ-catenin、IGF-2をコード化するインスリン様成長因子-2 (IGF-2) mRNAの著しい増加を発見した(Raykha CN ら2014)。
彼らはローテーターカフ断裂またはFrozen shoulderの患者から肩関節関節包の組織を採取し、ウエスタンブロット法でβ-cateninを特定した。
彼らは、Frozen shoukderとデュピュイトラン拘縮は結合組織の線維化において同じ病態生理的プロセスをたどり、IGF-2はFrozen shoukderの関節包の線維化に直接関与すると結論付けた。

細胞外マトリックス分解酵素(MMPs)、組織メタロプロテアーゼ阻害物質(TIMP)、TGF-β はFrozen shoulderを含む線維化疾患に関与する(Schnaper HWら2003)。

TGF-βは細胞がマトリクスの遺伝子発現に重要な多機能サイトカインで、増殖と分化、基質の変質、免疫調節、アポトーシスなどに関与する(Pennison Mら 2007)。
またTGF-βは線維化促進因子であり、上皮線維芽細胞の変質を促進する。コラーゲンやフィブロネクチン、プロテオグリカンといった細胞外マトリックス合成を刺激し、線維芽細胞では細胞外基質のタンパク質特有の表層膜レセプターの発現や、細胞外基質の形成を促進する(Border WAら1994)。健康な人に比べてFrozen shoulderの患者の肩関節関節包ではTGF-β発現が上昇することが示されており(Lho YM,ら2013)、これはTGF-βが肩関節関節包の線維化において重要な役割を果たしていることを示している

MMPsは複数のサイトカインと相互作用を示し、組織の線維化に関与する。
現在20のMMPsと4つの組織メタロプロテアーゼ阻害物質(TIMPs)が確認されており、それらはコラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメライシン、エラスターゼ、膜結合性MMPsなどに分類される。
これらの酵素群は多様な生物学的活性を有し、細胞外マトリックスの再形成や分解において重要な役割を果たす。MMPsの変性は著しい線維化に関与する(Brown Iら2008)。

BrownのチームはFrozen shoulder患者(実験群)と健康な被験者(コントロール群)の肩関節関節包の線維芽細胞を培養し、実験群の線維芽細胞におけるMMP-1レベルが減少することを発見した(Brown Iら 2008)。
MMP-7, MMP-9, MMP-12, MMP-13の発現は、両グループで見られなかった。
MMP-14の発現がコントロール群の50%で見られたが、実験群では見られなかった。
それゆえ、彼らはMMP-1とMMP-14はFrozen shoulderの異常な線維化に関与していると確信した。

最近では、 LubisのチームがFrozen shoulder患者を高強度のストレッチ群と何もしないグループにランダムに配置する研究を行った(Lubis AM,ら2013)。
MMP-1, MMP-2, TIMP-1, TIMP-2およびTGF-β1の血清レベルが酵素結合免疫吸着測定法(ELISA) で測定され、健康な被験者(コントロール群)とFrozen shoulderの患者(実験群)の間で比較された。
MMP-1およびMMP-2の血清レベルはコントロール群に比べ実験群では低かったが、 TIMP-1, TIMP-2およびTGF-β1は著しく上昇した。実験群はこれらのサイトカインの測定と同時に肩関節の機能検査も同時に行った。
MMP-1とMMP-2の血清レベルは基準値より顕著に上昇し、高強度のストレッチを行ったグループでは著しく上昇した。TIMP-1, TIMP-2およびTGF-β1に関しては減少傾向であった。
高強度のストレッチグループは安静群に比べ顕著な機能改善を示した。
この研究を行ったチームは MMP-1, MMP-2, TIMP-1, TIMP-2およびTGF-β1はFrozen shoulderにおける線維化プロセスに関与し、自動的ストレッチは肩関節機能の改善に有効であると結論付けた。

HagiwaraのチームはFrozen shoulderにおける線維化と軟骨形成についての研究を行い、Frozen shoulderにおける関節包組織のコラーゲン線維は高密度で存在するが雑然と配列しており、ローテターカフ断裂の肩関節関節包の組織のほうがコラーゲン配列は整然としていることを実証した。
qPCRによってⅠ型およびⅢ型コラーゲン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、サブスタンスPの発現が明らかになり、ローテーターカフ断裂よりもFrozen shoulderのほうが血小板由来増殖因子が顕著に増加することがわかった。
免疫組織化学的検査ではFrozen shoulder患者におけるⅠ型コラーゲンの発現増加が確認された。

Haのチームは2014年にウエスタンブロット法を用いて肩関節不安定性のある患者20人、Frozen shoulderの患者22人、ローテーターカフ断裂の患者21人からそれぞれ肩関節関節包および肩峰下滑液包のサンプルを摘出し、
酸感受性イオンチャネル3 (ASIC 3)のタンパクレベルを解析した。
その結果ローテーターカフ断裂とFrozen shoulderの患者においてASIC3の著しい発現増加が確認された(Ha Eら2014)。
近年Choのチームは、肩関節不安定性の患者18人およびFrozen shoulderの患者18人からそれぞれ滑液と関節包の組織を採取し、mRNAおよび ASIC 1-3 のタンパクレベルをRT-PCR法および酵素結合免疫吸着検定法を用いて測定した。その結果、Frozen shoulderの患者においてmRNAおよび ASIC 1-3 のタンパクレベルが著しく上昇した。特にASIC 3の上昇が顕著で、これは ASICs がFrozen shoulderの病理プロセスに関与していることを示している。

これらの研究は、Frozen shoulderにおける肩関節関節包の拘縮および肥厚は増殖性線維形成疾患であることを示している。IGF-2, ASIC, TGF-β1, MMPsおよび TIMPs といったサイトカインはFrozen shoulderの線維化変性に関与している。これらのサイトカインはⅠ型およびⅢ型コラーゲンの発現上昇、線維化、肩関節関節包の拘縮や肥厚、関節ボリュームの減少に関与し、最終的に肩関節の可動域制限につながる。

代謝異常

Frozen shoulderは糖尿病と相関があることがいくつかの論文で報告されており(Lo SFら 2014)、高脂血症がFrozen shoulderのリスク要因であることもわかっている。高脂血症の腱に対する度重なる有害な影響も確認されている。高コレステロール血症の患者はローテーターカフ損傷のリスクが増加し、二次的にFrozen shoulderにつながる可能性もある(Zuckerman JDら2011)。

さらに、ヒドロキシメチルグルタリル-補酵素a還元酵素阻害薬を摂取している患者は肩関節硬縮のリスクが高まり、Frozen shoulderにかかりやすくなる。これらのことから、Frozen shoulderは脂肪組織の代謝と相関を示すと考えられる。

滑膜線維芽細胞におけるアディポネクチンの作用は、p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路からIL-6, MMP-1および MMP-3 といったリウマチ関節炎や骨関節炎(OA)の主要メディエーターの誘発によって高選択性を示す。このことはMAPKsとくにP38は、軟骨細胞におけるアディポネクチンシグナリングに重要な経路であることを示している。以上から、滑膜の過形成や肩関節関節包の線維化は脂質代謝異常が原因であるという仮説が立てられる。

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