ニュース: 2018年9月

三頭筋腱遠位停止部の断裂 ~case report~ (2018年09月08日)

今日のブログは三頭筋腱断裂のケースリポートをご紹介します。
肘関節痛でお越しになる患者さんで、三頭筋腱の慢性炎症の症状が見られる方がしばしばいらっしゃいますが、完全断裂の過去歴をお持ちの患者さんにはまだお会いしたことがありません。
非常に興味深い内容でしたので皆さんとシェアしたいと思います。

三頭筋腱断裂は非常にまれな損傷である。診断は難しく、しばしば発見が遅れたり見落とされたりもする(Rineer CAら2009)。この傷害に共通するメカニズムは、落下や肘後面を直接強打することである(Vidal AF,ら2009)。
非外傷性の三頭筋腱完全断裂のケースの多くは、糖尿病、血管内脾腫、黄色腫、副甲状腺機能亢進、慢性腎不全、全身性エリテマトーデス、リウマチ関節炎といった疾患の合併症で起こる。アナボリックステロイドや副腎皮質ステロイドの注射は腱の退行変性を招きやすく、腱断裂の原因になりやすい(Sierra RJら2006)。

case report

患者 52歳 男性 熱烈なボディビルダー 非喫煙者 酒も飲まない。
主訴 左肘の痛み、腫脹、弱化
シングルアームトライせプスエクステンションを行った際、左肘後面のパチっという音と共に突然痛みが出始める。
過去の治療歴や全身性の疾患は見つからなかった。
過去にアナボリックステロイドや副腎皮質ステロイドを含む薬物を服薬し続けたことは無い。
症状が出るほぼ二か月前に、患者は両肘に違和感を感じたがトレーニングをやめるほどではなかった。
入院中の血液検査、心電図検査、動脈圧および一般的な身体パラメーターに異常なし。

検査では三頭筋腱の肘頭停止部上で明白な腫脹が確認された。
肘関節屈曲で可動域制限はないが、肘関節伸展において25度の伸展制限が見られた。
肘関節伸展抵抗検査では痛みが伴うものの伸展動作は可能。
筋力検査では反対側にくらべ2/5程度の筋力であった。
レントゲン検査では、肘頭後面に小さな骨の剥離が認められた。
超音波おとびMRI検査では、腱と骨の接合部位に三頭筋腱の完全断裂が認められた。

外科的診断では三頭筋腱遠位停止部の完全断裂が認められ、小さな皮質骨の剥離が認められた。三頭筋腱は変色し、慢性腱障害の様相を示していた。

組織学的解析は手術中に摘出したサンプルで行われた。
sclerohyalinosisや慢性微細損傷起因性軟骨石灰化様退行変性、粘液性退行変性による線維性結合組織や血管新生を伴う慢性炎症巣が確認された。

再建手術後二か月で患者の肘関節機能は完全に回復した。

三頭筋腱遠位部の断裂はまれな症例である。
Anzelのチームは1014の腱損傷の症例中、三頭筋腱損傷は8例であることを報告した(ANZEL SHら1959)。断裂の好発部位は肘頭停止部で剥離損傷を伴うものが多いが、筋断裂や筋腱部断裂も報告されている(Rineer CAら2009)。

三頭筋腱断裂を負った多くの患者は急性症状であることを訴え、外傷後に肘後面に突然痛みが表れたと訴えることが多い。腫脹、斑状出血、痛みおよび肘伸展に伴う痛み、弱化の有無が検査のhallmarkである。
三頭筋遠位停止部における明白な裂け目がしばしば報告されている(Gap sign)(van Riet RP,ら2009)。断裂があればX線でも確認できる。
肘頭での皮質骨剥離(flake sign)は診断を明白にするうえで役立つ(Vidal AFら2004)。
超音波およびMRIは断裂部位と断裂範囲を明確にし、部分断裂か完全断裂かの判断が下される(Kaempffe FAら1996)。
三頭筋外側頭が前腕筋膜まで伸びているため、腱の10~90%を断裂しても自動的肘関節伸展は維持される(Sharma SC,ら2005)。広範囲にわたる断裂では迅速な外科手術による再建が推奨され、部分断裂では数週間の固定がスタンダードな治療となる(Vidal AF,ら2004)。

間接的な外傷においても、肘伸展位での落下が肘関節後面への直接外傷と同様の傷害発生メカニズムである。
腱の構造が変質した際は最小限の力でも自然断裂は発生する(van Riet RP,ら2003)。
三頭筋腱断裂を誘発する要因としてリウマチ、全身性エリテマトーデス、慢性腎不全、副甲状腺機能亢進、糖尿病、副腎皮質ステロイドの摂取とキノロン系抗菌薬の摂取が挙げられる(Rineer CAら2009)。なお、局所的なステロイド注射や肘頭滑膜包炎も三頭筋損傷に関与する(Sollender JL1998)。

ボディビルダーやウェイトリフターにおいて、多くの三頭筋腱断裂のケースが報告されている。腱の退行変性や断裂を負った選手の多くは、アナボリックステロイドや副腎皮質ステロイドの使用歴がある(Sollender JLら1998)。いくつかの実験的証拠で、アナボリックステロイドは超微細構造や生化学に悪影響を及ぼし、最終的に腱の生体力学的特性に影響することが判明している(Kennedy JCら1976)。
近年では Sierra のチームが、アナボリックステロイドの使用歴および副腎皮質ステロイド吸入による内因性ぜんそくの治療歴がある36歳のウエイトリフターにおける外傷性三頭筋腱完全断裂の症例を報告している(Sierra RJ,2006)。
同じ研究で、チームは16の類似ケースを再調査し、3つのケースは非外傷性で、2つのケースは肘頭滑液包炎の治療歴があることを確認した。
Sollenderのチームは、野球の打席やウエイトリフティングの最中に三頭筋腱の完全断裂を負った中年の4人の健康なボディビルダーについて報告している(Sollender JL1998)。うち三人はウエイトリフティングの最中に損傷を負い、慢性的な肘の痛みがあったことを訴え、3人のうち二人は副腎皮質ホルモンでの治療歴があった。さらに、4人全員にアナボリックステロイドの使用歴または現在使用中であることが分かった。

腱停止部は高度に特殊な微細環境であり、生化学的に特殊で、組織学的特性をもつ。
生後、正常な腱の停止部は腱から骨にリペアされた後再生せず、これが反応性瘢痕組織形成の回復につながる。全ての構造において正常な停止部の成分と構成は再生せず、これは生体力学的特性でもある(Rodeo SA 2007)。
さらにいくつかの実証試験では、腱の治癒のための固定期間は新生したコラーゲン線維の組織化が十分認められるために必要であり、損傷部位の抵抗特性や機械的特性の回復にとって象徴的である(Rodeo SA2006)。

上記で紹介した患者は、腱の治癒における不完全な生物学的メカニズムが継続的な運動によってさらに加速したのではないかと仮説を立てた。不完全な生物学的メカニズムの更新は結果的に低抵抗性の不良性瘢痕組織の形成につながる。
また、皮質骨の剥離が損傷に悪影響であることにも気づいた。
外傷性または非外傷性にかかわらず、適度な負荷のエクササイズでも三頭筋腱断裂は発生する。
腱で退行変性が起こると、他の正常な停止部位が負荷に耐えられず徐々に正常な組織も変質する。

出典:J Orthop Case Rep. 2015 Jan-Mar; 5(1): 58–61.

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