ニュース: 2018年8月

交差性症候群 (2018年08月09日)

交差性症候群

交差性症候群はUCS、LCS、LSに分類される(Janda 1987)。UCSは頸椎交差性症候群、LCSは骨盤交差性症候群、LSはstratification syndromeとも呼ばれる。交差性症候群は上半身4分の1、下半身4分の1の交互の側の抑制と亢進に特徴がある。UCSとLCSの組み合わせであるLSは、長期間の筋アンバランス状態を意味し、弱化と緊張が交互に起こるパターンが特徴的である。Janda’s SyndromeはFigure 1にその特徴を示している。

UCSは下部僧帽筋、前鋸筋、深部頸椎屈筋群の抑制と、胸筋群、胸鎖乳突筋、挙筋、上部僧帽筋の亢進が特徴的である。LCSは臀筋群や腹筋群(特に腹横筋)の抑制と、腸腰筋や大腿直筋、胸腰部伸展筋群の亢進が特徴である。

Jandaの分類を用いることで、ホメオスタシスの作用を試みる知覚運動システムの弱化や緊張のパターンを臨床家は予測することができる。Jandaは、筋トーンの変化が動作異常につながる筋アンバランスを生み出すとした。通常筋肉は低興奮性閾値で緊張しやすく、動作によって容易に活性化するため異常な運動パターンを生じやすい。アンバランスや異常運動は関節面に直接影響し、潜在的に関節の退行変性につながる。
いくつかのケースでは、関節の退行変性は直接的な痛みの原因になるが、痛みの実際の原因としては筋アンバランスに次いで二番目である。従って臨床家は、痛みの場所にフォーカスするのではなく痛みの原因を見つけ出すべきである。

筋アンバランスの系統的解析は静的姿勢検査から開始し、筋の過緊張または緊張性低下を観察する。これは片足立ちや歩行検査も行って判断する。静的姿勢や歩行、バランス検査は感覚運動システムの評価に非常に有用である。コンピューター化された重心動揺検査は、知覚や動作を数量化するうえで有用である。

次に、特徴的な運動パターンを評価し、特定の筋肉の緊張や短縮を評価する。表面筋電図は筋の活性パターンを数値化するうえで有用である。臨床家は上記の方法から筋アンバランス症候群の有無を検出する。特定のパターンの識別や筋アンバランス症候群の存在の確認は、機能異常の原因部位に対して適切な干渉をする上で臨床家にとって重要である。

上位交差性症候群の患者は、一般的に身をかがめた状態で立位または座位の姿勢をとる。座位における体幹の整体力学的変化を調べた研究では、前かがみの状態では直立位に比べて脊柱及び腰椎の屈曲角が増大することが示された(Caneiroら 2010)。その理由として、前かがみの状態での顎前突位を伴う前傾姿勢は上部頸椎を伸展させ、下部頸椎を屈曲させることが挙げられる(Weber 2009)。様々な座位が頸部固有受容感覚に与える影響を評価した研究では、前かがみ状態は正常な姿勢に比べポジションセンスが低下することが示された(Jungら2012)。
そして、頭部前突位および復位感覚が欠如している被験者は頸部のポジションセンスが著しく低下していることが示された(Leeら2014)。さらに、軽度の上位交差性症候群のグループは正常なグループに比べ復位感覚の欠如が若干見られたもののその違いに大きな隔たりはなく、被験者の体位性整列不全の程度は、軽度のグループよりも正常なグループのほうが大きかった。
従って、体位性整列不全の程度が大きくなるにつれて頸椎ポジションセンスは低下するといえる。頸部側屈とポジションセンスの関係を評価した研究では、被験者が不適当なしせいをとった際にポジションセンスが低下し(Kim 2011)、適切な頸部のポジションは頚長筋に存在する筋紡錘からの情報によって維持されることが示された(Bolton 1998)。慢性的な頸部痛患者は、頚長筋の委縮によって適切な位置情報が伝達されない(Kirschら2009)。
これらの研究結果から、不適切な姿勢が反復的に維持されることで、頸椎ポジションセンスの低下が進行すると推察される。

頭部の位置は適切な固有受容感覚によって認知され、適切な姿勢を維持するための神経伝達が繰り返し供給されることが必要である(Jungら2012)。
頸椎のポジションに関して、正確な姿勢を維持するためにはポジションセンスの低下による痛みまたはダメージの発生を予防することが必要と考えられる。

Jandaの治療アプローチ

1.周辺部の正常化。運動障害や筋アンバランスの治療は、感覚運動システムに入る求心性神経伝達を正常化することから開始する。これには治癒のための適切な環境づくりも含まれる(浸出液を減らして組織を保護し、適切な脊柱の整列を回復および周辺関節の関節運動の正常化を促す)。
2.筋バランスの回復。周辺部位の正常化が確認されたら、筋バランスを回復させる。関節周囲の正常な筋緊張を必ず回復しなければならない。“シェリントンの相互抑制の法則”(Sherrington, 1907)では、過緊張の拮抗筋は反射的に自らの拮抗筋を抑制するとされている。従って拮抗筋の短縮や過緊張がある場合、抑制または弱化した筋肉を強化する前に正常な筋長や筋緊張を取り戻すことが優先である。過緊張を取り除くテクニックには、Post-isometric relaxation (PIR) (Lewit, 1994)とPost-facilitation stretch (PFS) (Janda, 1988)がある。
緊張した拮抗筋によって反射的に抑制される筋群は、過緊張が起こる前にしばしば自発的に回復する。Jandaのアプローチでは、筋力よりも筋の協調性発火パターンが重要視される。仮に強い筋肉が他の筋肉と強調して作用する際に瞬発的に収縮できなければそれは機能的とはいえない。従って、単独の筋の筋力強化はJandaのアプローチでは重要視されない。 代わりに、反射性関節安定化を提供する協調性運動パターン時の適切な収縮を促進することが重要である。
3.反射性安定化促進のための求心性入力の増強。筋バランスの改善に着手したら、Jandaは「感覚運動トレーニング(SMT)」と呼ばれるエクササイズプログラムで、中枢神経システムへの固有受容性入力を増大させる(Janda and Vavrova1996)。このプログラムは、自動的協調性運動を促進する皮質下経路(脊髄小脳、脊髄視床、前庭小脳経路も含む)に入る求心性信号を増加させる。SMTは感覚運動システムを段階的に強化するエクササイズを通じて漸進的な刺激を供給する。SMTによって固有受容感覚、筋力、姿勢の安定化に伴うACL再建(Pavlu & Novosadova 2001)、膝関節安定化(Ihara & Nakayama 1996)、足関節安定化(Freemanら1965)が改善されることが証明された。
4.協調性運動パターンの持久力の増大。最後に、持久力は協調性運動パターンを反復的に行うことで増強される。疲労は代償性運動パターンの要因になるため、持久力は筋力よりも重要である。エクササイズは低強度高ボリュームで行い、日常生活の生活様式を考慮したものを行う。

Jandaのアプローチは今日の治療環境でも十分有益である。一度症状を見極めれば、高価な器具などなくても特定の治療法で十分治療可能である。慢性痛の原因の早期発見は、最小の治療回数で治療でき、かつ高価な器具を患者に負担させることもない。Jandaのアプローチのカギはホームエクササイズにある。それほど費用のかからに器具でエクササイズを進めることができ、機能改善を見込めるだろう。

要約
Jandaのアプローチでは、感覚運動システムにおける中枢神経システムの重要性が強調される。特に予測可能な筋トーンの変化を示す筋の神経学的性質や、動作や筋トーンの調節における求心性信号や固有受容感覚の重要性に焦点があてられる。従って筋骨格系自体よりも、感覚運動システムに焦点を当てた検査や治療を行う。構造的アプローチよりも機能的アプローチを用いることで、すぐに筋骨格系の痛みの原因を特定することができる。Jandaのアプローチは慢性痛を扱う臨床家にとって非常に有益なアプローチである。

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